"アルビノの木" 感想 都会の価値観の押し付けと自然の美しさが光る。
「アルビノの木」
*本レビューには、ネタバレが含まれています。
世界で11の映画賞を受賞している作品。
一部賞には日本人監督作品初受賞もあるらしい。
あらすじ
農作物を荒らす害獣駆除会社で働くユクのもとに高額報酬の仕事の依頼が舞い込んだ。
それはかつて鉱山として栄えた山あいの村で、「白鹿様」と呼ばれる鹿を秘密裏に撃つことだった。
ユクは普通の鹿と異なるというだけで害のない動物を殺すことに多少の疑問を感じながらも、山に分け入っていく。
山の集落で静かに暮らす人びとと出会い、山々や木々など圧倒的な自然に触れるユクの前に白い鹿が現れる。
兼業猟師である主人公ユクと、依頼対象である白鹿を祀る限界集落の村。
白鹿は直接的には害はないが、放っておくと周辺地域の悪影響を及ぼす可能性はある。
村の状況やユクの状況が徐々に説明されていく。
淡々とした主人公、価値観の押し付け。
この作品はほとんど感情が語られない。
主人公の言動は極めて淡々としている。
「若者が出ていき村は限界。鹿は害になる。母が死にそう。だから撃たなければならない。」
最後まで葛藤のようなものはあまりなく、住民を説得する際もそれ以上を語ったり、相手の事情を深く聞いたりはしない。
もう少し相手の側に立って時間をかけてもいいのではないか?と感じるが、科学や都市で生きてきた主人公に取り付くシマはないようだ。
正しさの押し付けが行われる現場をまさに目撃しているような気分になる。
なぜ、ナギは村を出なかったのか?
ナギはユクに同調し、一度は村を出る決意をする。
しかし、最終的に彼女は村を出ない。なぜなのだろうか?
村の青年であるヨウイチを特別慕っているような描写はない。
白鹿が村を存続させる鎖のようなものであれば、ナギもまた白鹿のような村を存続させる人柱になってしまったからだと感じる。
ナギは村の外には詳しくないし、ずっと村で生きてきたので街に出たからといって何者かになれる保証はない。
村という場所と文化がナギを"神"にする。
しかし、村の唯一の若い女性である彼女の存在意義は絶大なものである。
ただのアルビノである鹿が村の中では"神"になれるように、ナギもまた1人間という価値を大きく超えることができる。
彼女はそこに魅入られてしまい、変化を受け入れることができなかったのではないか?
白鹿が殺され、村の存在意義が脅かされたことによって、なおさら自分が村を繋ぎ止める存在にならなければならないと感じたのかもしれない。
序盤では実際にナギは村を出ていこうとしているので、白鹿が殺されたことによって変化が生まれた。
ヨウイチと結婚する必要性を感じたのだ。
集団や文化を維持するために起きる最終防衛ラインに彼女は引っかかってしまったのだ。もっともそれが彼女にとっては一番幸福な生き方なのかもしれないが...